9月7日(土)~8日(日)に、第8期基礎講座を開催しました。今回は、中和地域で様々な地域づくりの活動をされている住民の皆さんと、愛知県豊田市敷島自治区定住促進部員の安藤征夫さんからお話を聞き、自治とは何かを改めて考えました。
初日は、公開講座として開催し、地域の皆さんにも参加いただきました。
≪1日目≫
「ありがとうのつながり」でつくる未来〜中和550人のチャレンジ!!〜(公開講座)
◆「中和いきいきプロジェクトの歩み」
由井堅史(中和地域づくり委員会委員長)/大美康雄(中和コミュニティ・スクール運営協議会会長)
中和村は、2005年3月末に9町村で合併し、真庭市となりました。高齢化や人口減少が進み、このまま何もしなければ地域は持続可能ではなくなるという危機感から、2014年に住民アンケートを実施しました。その結果、8割の住民が中和小学校の存続を望み、移住者の受け入れにも多くの人が前向きであることがわかりました。そこから新たな地域づくりへのチャレンジがスタートします。
2015年、薪を活用した地域内エネルギー循環を目指す「一社アシタカ」が設立され、地域内の連携により、ひとつの小さな成功体験が生まれました。
続いて2016年には「真庭なりわい塾」が中和地域をフィールドに開講。この年には「中和いきいきサポーターズ倶楽部」も発足し、小学校を支援する活動がスタート。
さらに2017年に実施した空き家調査を経て、2018年に地域の交流拠点「えがお商店」をオープンしました。
続く2019年には移住・定住対策として「中和定住案内所」を「えがお商店」に設置し、移住者が少しずつ増えていきました。その結果、2020年年度には、中和地域の人口は、増加に転じました。
また、中和いきいき学習を中心とした主体的・対話的な学びや、まにわ里山留学(山村留学)の実施など、教育の充実にも力を入れています。
2023年には、地域の助け合いによるデマンド交通が導入され、さらに、中和ふるさと納税により地域の財源を確保する取り組みも始まりました。中和地域は、これからも教育の魅力化や移住定住促進などに取組み、地域の活性化を目指していきます。
◆「小学校も保育園もいきいきと元気に」
土肥真由美(中和いきいきサポーターズ倶楽部代表)/川上翔(真庭市郷育魅力化コーディネーター)
中和いきいきサポーターズ倶楽部は、中和小学校と保育園、地域づくりの応援団として設立されたボランティア団体で、PTA会長だった土肥真由美さんが、2016年に6名の保護者とともに設立しました。設立当時は、中和小学校が複式学級に移行するタイミングで、保護者や教職員の人数が減り、負担が増えることを心配し、主に小学校を支える活動からスタートしました。その後、協力者が地域内外から増え、登録メンバーは現在38名になっています。
活動内容は、学校施設の管理や学習支援、学校行事のお手伝いなど多岐にわたり、地域全体で子どもの育ちを支えています。また、地域の交流拠点である「えがお商店」では、長期休暇の子どもの居場所づくりとして、サマースクール等も企画しています。
川上翔さんは、真庭市の郷育魅力化コーディネーターとして高校の魅力化に携わりながら、地域の保護者の一人として、中和保育園の自然保育に関わっています。移住者の子どもたちが多い中和保育園では、自然保育を希望する保護者が多く、月に数回、「森遊びの日」という愛称で自然保育を実施しています。
子どもたちは、朝から里山で出かけて、自然の中でのびのびと遊びます。夏は、リュックに着替えを入れて、小川で遊ぶこともあります。自然保育には地域の住民や専門家、保護者も積極的に関わっています。さらに保小連携の活動や行事があり、他の小規模校や園とも交流するなど、多様な学びや交流の機会をつくっています。
また、今年から中和地区では「まにわ里山留学」が始まりました。1年間、ホームスティをしながら中和小学校に通う子どもを地域で受け入れ、また、夏には、地元の子どもたちと地域外の子どもたちが一緒にキャンプをする機会もつくっています。普段は家でゲームをしていた地元の子どもたちも、今では留学生と一緒に自然の中で遊ぶ機会が増え、お互いによい体験を重ねています。
中和小学校では、「学び合う授業」を大切にしています。学び合いの基盤である「対話する力」を育むために、「4つの対話アイテム」を活用しています。お互いにわからないことを「おたずね」し、友だちの「いいとこ見っけ」をし、友だちの考えを「おたすけ」しながら、「自分の考え」を広げ、深めます。「対話する力」が必要なことは、地域づくりも同じです。子どもも大人も、地域の中で、共にともに対話し、実践しながら成長していきます。
◆「しきしまを愛する人と共に」 〜住民自治から関係自治へ〜
安藤征夫(愛知県豊田市敷島自治区定住促進部員)
敷島自治区は、愛知県豊田市の中山間地域に位置し、人口880人、319世帯、9集落で構成される地域です。安藤さんらは、人口減少や高齢化を受け入れつつ、地域内外の人々で新たな共同体と自治を築くことを目指し、2010年から地域づくりの活動を開始。住民10年後を見据えながら5年ごとの行動計画を「しきしま♡ときめきプラン」として策定し、3つの柱で独自の活動を開しています。
まず、「支え合いシステム」の構築です。住民の困りごとに対してお互いに助け合う仕組みを作り、困っている人と、お手伝いできる人のマッチングを行っています。
次に、農村景観を守ること。農村RMO実証事業をスタートし、草刈りロボット開発実証や高齢者の移動支援などを行う他、「自給家族」と呼ぶCSA(Community Supported Agriculture=地域支援型農業)に取り組んでいます。これは、生産者と消費者が連携し、前払いによる米の栽培契約を締結し、相互に支え合う仕組みです。
そして、3つ目は「しきしまの家」を地域内外の活動交流拠として整備し、経営的手法を取り入れた新たな地域経営組織を新たに作っていることです。自治の主体は必ずしも地域住民だけではないと考えています。地域住民と関係人口が共に自治の主体となり、地域課題を解決することを目指しています。
◆ パネルディスカッション
最後のパネルディスカッションには、地域にIターンした方や地域の中堅の方々を中心に登壇いただきました。
鈴木浩幸さんは兼業農家で、集落の若手同士のつながりを強めるため「ふいごの会」を設立。メンバーで協力し、今年からドローンを活用した米や蕎麦の栽培に取り組んでいます。将来、耕作放棄地がさらに増えていくことを見越して、少しでも効率よく農地を管理できるようしていきたいと試行錯誤を重ねています。
上田善宗さんは移住後、蕎麦屋を開業しましたが、地元住民と移住者がお互いに知り合えているのか。つながる機会も少ないことに疑問に感じ、何か地域のお役に立つことができないかと考え、蕎麦屋の仕事の合間にデマンド交通の運転手をするようになりました。高齢の方との交流によって、顔の見えるつながりも増えています。
村田朋子さんは保育園のPTA会長として中和地域づくり委員会に参加したことをきっかけに、現在、中和ふるさと納税の事務局をしています。当初、中和地区への寄付には返礼品がなく、寄付総額も数万円程度でしたが、さまざまな返礼品を工夫することとで、寄付額を増やすことができました。寄付金は教育の魅力化や地域の景観を守る活動等に使われています。
中谷由紀男さんは、地元住民として育ちましたが、若い頃は地域の良さを感じる機会が少なかったそうです。小学校がコミュニティ・スクールになり、中和いきいき学習に大人も関わるようになり、地域の良さやその価値を再認識しているそうです。
渋澤塾長は、敷島自治区や中和地区は、地域の課題を解決し、自分たちの暮らしを自分たちでつくろうとする自治を行っている。すべてを行政任せにはしない、協働による自治を行っている地域は、全国ではまだまだ少ないと言います。
これからもお互いの取り組みに学びあいながら、地域にU・Iターンした人や関係人口も含め、地域を共につくっていく地道な活動を続けることが大切だと改めて感じました。
夕食
夕食は、津黒いきものふれあいの里でバーベキューをしました。講座に登壇した方々や実行委員会の有志にも参加いただきました。6~7人ずつがバーベキューの台を囲むように座り、話をしながら、ゆっくり食事をしました。中和は、標高約450mの高原です。夕暮れ時は、涼しい風が吹き、日中の暑さが嘘のようでした。
≪2日目≫
◆ 「小さな村の150年の軌跡」 大美康雄
中和地区は、江戸時代は5つの村(別所・吉田・下和・真加子・初和村)に分かれていました。
明治10年(1877年)、5つの村の寺子屋を集めて「中和小学校」ができます。「中和」とは、儒教の経典『四書』の「中庸」の一節、“中和を致せば、天地位し、萬物育す”からとったものです。
「人は、もともとは喜怒哀楽もなく偏っていない(中)。これらの感情が発しても、節度をもち偏りがなければ全てに適う(和)。「中和」を推し進めて極めれば、世界は安泰で、人も物も皆その生を遂げることができる。」という意味です。
その後、明治22年(1889年)に、5つの村が合併して中和村ができました。その後、戦争の時代があり、戦後復興、民主化、エネルギー革命、高度経済成長、企業誘致、観光振興、バブル景気とその崩壊と時代が移り変わり、2005年(平成17年)に、平成の大合併により真庭市になりました。その後、過疎高齢化とすすんでいく中で、移住定住促進や小学校の魅力化など、新たな地域づくりの活動が生まれました。
人も地域も時代の流れとともにあり、一人ではどうしようもできないこともあります。しかし、時代を切り拓いていくのは地域に暮らす私たちです。微力ではあるが、無力ではないと大美康雄さんは語りました。
◆ 「これからの社会と地域コミュニティの重要性」 渋澤寿一
自分たちで解決できないことは共同体で解決し、さらにできないことは行政が補完する。自治とは、行政からの指示ではなく、地域で共感を育み、価値を共有する仕組みです。個人の豊かさとは、自由でお金があることだと、多くの日本人は思っているかもしれません。でも、それで本当に幸せなのでしょうか? 田舎ではプライバシーがなく、それが煩わしいと思う人もいるかもしれません。「ありがたさ」と「煩わしさ」は実は隣り合わせです。
自分一人で生きていけると考える人は、他者に対して無関心です。無関心がコミュニティを壊していきます。お互いに「共感」を持つことが大切です。元京都大学総長で、ゴリラの研究者である山極壽一さんは、人や動物が共感できる人数には限りがあると言います。ゴリラは15頭以内であれば、言葉はなくとも共感できます。言葉をもつ人間でも共感できるのは、1000人~3000人程度まで。つまり、小学校区(あるいは中学校区)程度のコミュニティの範囲です。地域とはまさに、共感のできる範囲なのです。
3.11(東日本大震災)で、私は多くのことを学びました。地域の自立や自治の大切さ。そして地域の暮らしは、絆や世代間のつながりで成り立っているということです。次世代が暮らす未来のことを考えながら、地域を再生する必要があります。
日本の集落には、お互いに支え合いながら生きてきた歴史があり、共同作業や労働の交換(結い)が必須でした。合理性や効率性の外にある共感が、持続可能な社会には不可欠です。次世代のために人と自然、人と人、世代と世代ががつながる行為が「祭り」、その魂を確認する行為が「祈り」だと、渋澤塾長は語りました。
◆哲学対話「自治って何だろう?」
最後に、グループに分かれ、自治について考える対話を行いました。「地域に関わることは煩わしいこともあるけれど、それを上回る喜びがあるので続けられる」と話す人、「田舎は煩わしいと思っていたけど、実は面倒くさいだけで、煩わしくは思っていなかった」と気づいた人もいました。また、「都会に暮らしていても煩わしいことはあり、そもそも人間は煩わしさから逃げられないのでは」、「コミュニティの中で共に暮らす人と話をすることは大事。まずは挨拶からでもはじめてはどうか」など、様々な気づきがあったようです。
次回は、「先輩の話を聞く」をテーマに、農山村の暮らしとナリワイについて考えましょう。
講義資料
①「中和いきいきプロジェクトの歩み」由井堅史・大美康雄
②「小学校も保育園もいきいきと元気に」土肥真由美・川上翔
③「しきしまを愛する人とともに」安藤征夫
④「小さな村の150年の軌跡」大美康雄
⑤「これからの社会と地域コミュニティの重要性」渋澤寿一