8月10日(土)〜7日に、第8期基礎講座を開催しました。今回は、「地域と産業と暮らし〜里山と林業」をテーマに、渋澤塾長の里山やバイオマスに関する講義、映画鑑賞、伐採作業の見学、さらに中和地域で里山を利用したナリワイを実践している方にお話を伺いました。
■講義「日本の森と人の暮らし」
初日は、渋澤寿一塾長による講義からスタートしました。
日本人は、燃料、肥料、食料、繊維、建材など、生活に必要なものの多くを里山から得てきました。燃料利用の場合は、一定のサイクルで広葉樹を伐採し、萌芽更新をさせて、山を若返らせながら利用します。伐ることで山には光が入り、生物多様性も維持されてきました。
しかし、第二次世界大戦で、その循環は途絶えます。軍需物資等として木材の需要が高まり、日本の山は伐り尽くされ、禿山になったのです。戦後は針葉樹の拡大造林が行われました。しかし、高度経済成長期の燃料革命により、燃料は薪炭から石油へ、建物は木造から鉄筋コンクリートに変わりました。外材の輸入解禁等も相まって、国産材の供給は減少。木材価格は低迷し、山が荒れているのが現状です。
里山を維持するためには人の手が加わることが欠かせません。皆さんも簡単なことからで良いので、ぜひ森と関わりを持ってほしいと思います。
■「奥会津の木地師」映像上映
1975年に制作された『奥会津の木地師』(民俗文化映像研究所)を鑑賞しました。木地師とは、轆轤(ろくろ)を使い、お椀等を作る人のことで、かつては山を転々と移動しながら暮らしていました。当時、すでに50年前には途絶えていた、木地師の暮らしや技術を再現した記録です。
中和地域の植杉川上流にには、かつて木地師が住んでいたといわれます。山中には今もたくさんの墓石が残っています。
■「里山と人工林」〜伐採作業の見学〜
實原将治さんは、もともと真庭市の職員でしたが退職後、特殊伐採等の技能を習得し、現在は真庭木材事業協同組合の専務理事として真庭バイオマス集積基地で働いています。今回は、チェーンソー等の道具や木を伐採する手順等を教わり、実際に杉を伐倒する様子を見学させていただきました。
伐採する手順を頭で理解できても、実際に伐るのは簡単ではありません。密集した林の中で倒す方向を見定めるには経験が必要です。木を倒す方向に合わせて「受け口」をつくり、その反対側から水平に「追い口」を入れていきますが、切り込む高さは「受け口」よりもやや高い位置とし、最後に必ず「ツル」を残すことが大切だと教わりました。
■夜の映画鑑賞
夕食後は、自由参加で映画『先祖になる』を鑑賞しました。岩手県陸前高田市で農林業を営む77歳の佐藤直志さんが、東日本大震災からの復興に奮闘する姿を追ったドキュメンタリーです。津波で家を流され、息子さんを亡くした佐藤さんですが、被災から3日後には米をつくることを決意し、知人の田んぼを借りて、田植えをしました。さらに自ら木を伐採し、1年半後には家を新築します。復興に奮闘する佐藤さんの姿から周囲が変わり、若者たちも祭りを復興し、立ち上がっていきます。私たちが暮らす地域のことを改めて考えさせられる作品でした。
■里山の多面的活用〜一般社団法人アシタカ〜
2日目は、朝から山乗渓谷へ。そうめん流し「流水亭」を5年ぶりに復活させた一般社団法人アシタカの赤木直人さんのお話を伺いました。大阪で生まれ育った赤木さんは、結婚とお子さんが産まれたことをきっかけに、中和地域の奥様の実家に入り、ここで暮らすようになりました。当初は観光連盟に勤めていましたが、地域振興会社として一社アシタカを設立。薪の販売、クロモジ茶やアロマオイルの生産、アスレチック施設の経営、漬物の加工など、10種類以上のお仕事をされています。一見バラバラの事業に見えますが、すべて里山の資源を多面的に利用しているのが特徴です。そんな赤木さんのお仕事のキーワードは「つながること」。地域の人とつながることを大切にしながら事業を継続し、まもなく10年になります。一番の成果は、地域内のたくさんの人が関わり、お互いに協調する仕組みができたことだそうです。
■里山の人と暮らし〜津黒いきものふれあいの里〜
赤木さんが管理する薪土場に立ち寄った後、里山をフィールドとした自然公園を小林加奈さんの案内で歩きました。薪炭、食料、薬などになる植物を観察。草刈りを定期的に行うことで、植生が豊かになった場所も見学しました。ネイチャーセンター「ささゆり館」では、スゲ蓑やガマ細工を展示するコーナーで、使う材料や作り方の説明を聞きました。初日の講義で聞いたお話を実感する時間になりました。
■林業とバイオマス~里山資本主義~
最後は、渋澤塾長による「里山資本主義」の講義です。
地域は、「経済的価値」だけではなく、「非経済的価値」も含め成り立っています。食料やエネルギーを自給すること、水や共有林をコミュニティで管理すること、祭りや行事、共同作業などの文化風習は大切ですが、経済統計ではまったく評価されません。「経済的価値」も、これまでは「外部経済」が重視されてきました。つまりモノやサービスを売ることによって、外部からお金を持って来れば、地域は活性化すると考えられてきたのです。しかし、外からお金を得ても、地域内でお金を循環する仕組みがなければ、地域は活性化しません。エネルギーやサービスの多くを外部に依存し、せっかく得たお金が外に出てしまうようであれば、地域は豊かにはならないのです。「内部循環経済」は、地域の人と人、人と自然をつなぎ、地域に雇用を生み出します。その仕組みが「里山資本主義」なのです。
真庭のバイオマス事業は、地域の製材業が、どうしたら生き残れるだろうかと考えるところから始まりました。日本の製材所は、柱や板材など加工だけを行い、そこから生まれる端材やおが屑等のバイオマスは、産業廃棄物として処理するしかなかったのです。それらをボイラーや発電所の燃料として活用し、あるいは、チップや粉にすることで新たな商品を生み出そうと、様々なことに挑戦してきました。
けれども製材所の操業は住宅発注に左右されます。バイオマスの安定して利用するためには、製材所だけに頼ることはできません。そこで、山から直接、林地残材等を運び出し、製材端材等とあわせて集積する基地を作ることにしました。それが真庭木材集積基地です。地域内から出てくる、さまざまなバイオマスを、それぞれいくらで買い取るのか。それを発電所は、いくらで買い取ってくれるのか。関係者で喧々諤々の議論をしながら決めました。モノの価値を自分たちで決めることは、自治の基本です。最後には、次の世代のためにがんばろうと言って、折り合いをつけることになりました。
現代の無縁社会の本質は、関係性の遮断であり、他者への無関心です。愛のきっかけは興味を持つことです。お互い、関心や共感を持つことが、持続可能な社会の基本です。これまで私たちは、GDPを向上させるために働き、お金やモノを際限なく求めてきました。これからはお金やモノではなく、共感や協働、あるいは個々の幸せだと私は思います。人生は「職業選択」ではなく「生き方づくり」です。これからの労働は、単にお金を稼ぐのではなく、「生きる意味を問う労働」に変わっていくでしょう。この真庭なりわい塾は、それを試行錯誤する時間にしていただきたいと思います。それぞれ、どんな人生をつくっていきたいか、どんなコミュニティで暮らしたいのか。一緒に考えていきましょう。
講義資料① 日本の森と人の暮らし
講義資料② 里山資本主義の道のり