第7期基礎講座 「先輩の話を聞く」

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10月28日(土)~29日(日)、第7期真庭なりわい塾の基礎講座を開催しました。今回は、半農半X研究所の塩見直紀さんをお招きし、塾生それぞれが、自分の興味・関心やキーワードをみつけるワークショップを実施。
2日目には、北房に移住し就農した人、子育てのサークルの活動を立ち上げた人、自分の特技を生かしてナリワイを実践している人3名に、それぞれの生き方、働き方について話を聞かせていただきました。
初日の講義は、そもそもナリワイとは何かというお話からスタートしました。

◎「農山村の100のナリワイ」 副塾長:駒宮博男

生業(なりわい)という言葉の意味は、「生活を営むための仕事」ですが、「五穀が実るようにつとめる技(わざ)」、つまり「農業」という意味もあります。「農」は、日本人にとって欠かすことができない、大切なナリワイだったと言えるでしょう。

ナリワイについて考えるときに、真庭なりわい塾では「稼ぎ」「務め」「暮らし」の3つのバランスが大切だと話しています。現代は「仕事=お金を得ること」(稼ぎ)と考えがちですが、お金にはならない仕事(シャドーワークと称される「家事」や「育児」など)もナリワイですし、「務め」もナリワイです。
「務め」とは、集落(地域)で行う堰上げや草刈りなどの共同作業のことです。祭りの世話役なども含まれます。コモンズ(共有資源)を共同で利用し、管理することと言えるでしょう。これは、先祖から受け継いできた共有財産を、次世代につなぐ仕事です。
近年、日本企業は「ライフワークバランス」と言うようになりましたが、この言葉には「務め」は含まれていません。

真庭なりわい塾では、「買う」から「つくる」へ、という表現もよく使います。「買う=貨幣経済」、「つくる=非貨幣経済」といえるでしょう。「非貨幣経済」には、「交換」や「贈与」も含まれます。衣食住の自分たちでまかなうことが基本ですが、それは「自治」にもつながります。

そもそも、私たち日本人にとって「働くこと」と「生きること」は、同義でした。ところが、明治以降、近代化が進む中で「労働」という概念が生まれたのです。「労働」という言葉には、「骨を折って働くこと」という意味があります。「時間」という概念が「労働」を生みました。そして、企業は「労働生産性」をより重視するようになりました。

近代化や植民地主義、そしてグローバリゼーションによって経済格差が広がりました。日本では、高度経済成長期に「一憶総中流」という言葉があり、当時、中間層が多くの割合を占めていましたが、今は中間層が没落し、高所得者と低所得者に二極化しています。

「幸せの経済」を提唱するヘレナ・ノーバーグ=ホッジは、グローバリゼーションに対抗するためには、ローカリゼーションが大切だと主張しています。人が幸せに生きるためには、食、エネルギー、教育、医療・福祉を自給できる地域社会をつくり、一人一人の自立度を高めていくことが大切だと思います。

◎「半農半Xという生き方」 半農半X研究所:塩見直紀

塩見さんは、20代の自分が探しの過程で、「半農半X」という言葉を見つけました。「半農」は「環境問題」と密接にかかわる言葉で、「半X」は「天職」という意味です。「半農半X」の組み合わせは無数にあります。
半農半漁、半農半工、半農半商、半農半医、半農半画家、半農半教員・・・。あるいは、半林半X,、半公半X、半X半ITなど、人によっては半農以外の組み合わせを考える人もいるでしょう。

一人一人の使命には多様性があります。大切なのは、それぞれが自分の型(かた)を明確にし、生きる方向性(こころざし)をみつけていくことなのかもしれません。

塩見さんには、講義の後、ワークショップを行っていただきました。はじめに行ったのは、「Ato Z」というワークショップです。それぞれが、AからZまでの頭文字からはじまる自分のキーワードをみつけて、シートに記入していきます。たとえば、Aならば、「綾部市」「合気道」「空き家」「愛」「アート」・・・など、人によって、いろいろ考えられます。続いて、「一人一研究所」というワークショップを行いました。それぞれが「好きなこと」「得意なこと」「気になるテーマ」「ライフワークと思えること」の組み合わせと、その活動フィールドとする地域名をシートに記入します。そして、もしも自分が研究所をつくるとしたら、どんな研究所をつくるのか。その名称を記入します。たとえば、「食」×「自給」をキーワードとしてあげた人の研究所は、「小さな農の研究所」という名称になるかもしれません。

シートに記入した後は、どんなキーワードを記入したのか。どんな研究所を考えたのか。全員で発表を行いました。塾生ひとりひとりの個性とあわせて、それぞれの共通点も感じられる楽しいワークショップでした。

◎前期振り返りのワークショップ

今回の講座では、塾生同士、3人1組でインタビューし合いながら、塾に応募した動機や、塾に通う中での自身の変化や気づき。これからの夢などを語り合うワークショップも実施しました。塾に通う中で、お互いに親しくはなっていますが、改めて、それぞれがどんな想いで塾に通っているのか。これからの生き方、働き方について何を思い描いているのかをシェアする貴重な時間になりました。

◎先輩の話を聞く
2日目は、地域の3人の方をお招きし、それぞれの人生の歩みについて、車座になってお話をお聞きしました。

一人目は平泉繁さん。大阪から約25年前に移住し、新規就農した平泉さんは、「農事組合法人清藤」に参画し、桃やブドウなどの果樹を栽培してきました。現在は主に販売を担う「きよとうファーム株式会社」を立ち上げ、その代表を務めています。

二人目は、原優子さん。原さんは、子育て中の親たちがお互いの子どもを育て合う広場「ほくぼう ほたるっこ」を14年前に立ち上げ、その代表を務めるとともに、北房小学校の地域学校協働活動推進員としても活躍されています。

そして三人目は、門野暁生さん。門野さんは高校卒業後、有限会社寿園に勤め、林業に従事。その間に様々な資格を取得し、水道業や不動産業に従事した経験を生かしながら、現在は、株式会社ライフスタイルの代表を務めています。株式会社ライフスタイルは、空き家を購入してDIYで再生し、賃貸や販売を行っている会社で、地域の空き家対策にも一役買っています。

塾生は、それぞれの関心に応じて話の輪に加わり、直接質問をしながら話を聞きました。3人すべての方の話を少しずつ聞いた人もあれば、1人の方のところで、最後までじっくり話を聞いた人もいます。

3人に共通するのは、自身の気づきやこだわり、想いを大切に、その人らしいお仕事や生業(なりわい)を実践していることです。新しいことをはじめるときには、頭でっかちになりすぎて躊躇してしまうこともあるかもしれませんが、まずは小さなことからでもトライしてみる。そんな勇気と行動力が大切かもしれないと、3人のお話から改めて気づかされました。

◎講義「これからの生き方・働き方」渋澤寿一(塾長)

最後は、塾長にご自身の体験をもとに、お話をいただきました。

渋澤さんは、40代のとき、ミャンマーでマングローブの植林活動の支援をしていました。当時、ミャンマーではマングローブ林で小魚をとり、自給していました。夕食のおかずには、お母さんたちが料理した魚が並んだそうです。ところが、その脇で、日本の企業がマングローブを伐採してエビ池を作り、養殖していました。お父さんたちは、マングローブ林の伐採権を企業に売り、昼間からお酒を飲んでいたのです。養殖したエビのほとんどは日本に輸出されていました。

マングローブを伐採し、エビを養殖することで、子どもは学校に行けるようになりました。井戸を掘って、安全な水も得られるようにもなりました。エビを輸出する企業のCSRレポートには、「私たちの企業活動はSDGsに貢献しています」と書かれています。「貧困の根絶」「健康と福祉」「質の高い教育」「安全の水」「人や国の不平等をなくす」といったSDGsの目標に貢献しているからです。

しかしその一方で、マグロ―ブ林の伐採は、「森林の破壊」「海洋生物の多様性の減少」「生態系の破壊」など、環境に大きな負荷を与えています。そしてミャンマーでは、これまでになかったような争いや殺し合いが起こるようになりました。いったい誰がどこで間違ったのでしょうか。

戦後、私たちはGDPを向上させるために必死に働いてきました。けれども、そのことで、幸せな社会を実現できたといえるか。考え直す必要があります。

SDGsは、「経済と社会と環境を調和させること」、そして「誰ひとり取り残さないこと」を目標に掲げています。個別の指標さえ実現すれば良いということではないのです。改めて、私たちは、「お金(経済)だけが幸せの指標なのか」ということを問い直さなければならないと思います。

これからの労働は「GDPを向上させるため労働」ではなく「生きる意味を問う労働」に変わるだろうと渋澤さんは言います。
地に足がつき、コミュニティの中で必要とされ、 自然の恵みを得ながら、必要最低限のモノを持つ暮らし。人と人、世代と世代がつながっている社会を実現する。そのためには、「お金」(経済)よりも「共感」や「協働」。そして「共生」(自治)が大切です。
私たちは「私らしさ」を求めていますが、その「私らしさ」は、他者との関係性の中にこそあるのです。そして「幸せ」もまた、人と人、人と自然、世代と世代の関係性の中にあります。

≪講義資料≫ 農山村の100のナリワイ(駒宮博男)
       半農半Xという生き方(塩見直紀)
       これからの生き方・働き方(渋澤寿一)