第3期 基礎講座「地元学」

■6/9~10第3期基礎講座 第1回 「入塾式/集落をあるく・みる・きく」

 

6月9、10日(土日)に、真庭なりわい塾第3期の基礎講座が開講しました。今年も21名の塾生が6月から来年1月まで、1泊2日の全8回、真庭市中和(ちゅうか)地区に通い、共に学びます。

 

入塾式では、はじめに主催者を代表して真庭市の太田昇市長、ついで中和地区住民を代表して中和地域づくり委員会の大美康雄さんにご挨拶いただきました。

太田市長からは、真庭市が地域経済、エネルギー、コミュニティなど、本当の意味で自立した地域自治や個人を育てていきたいと考えていることが、塾の背景となっていることをご紹介いただきました。また、塾生にはこの塾で個性を磨きあげるとともに、1期生から3期生までの塾生同士のネットワークを活かし、願わくば真庭市やその他の自治体の力になってほしいという期待も語っていただきました。

大美さんからは、中和地区が子ども達の未来に活力と魅力ある地域をつなげていくことを目指して、様々な取り組みを進めていること、自然農法・薪生産・ジビエの加工販売・豆腐屋・ゲストハウスなどをナリワイとする多様な価値観を持った移住者の方が近年増えていることをご紹介いただきました。昔ながらの良さを残しながら、新しい価値観を取り入れた活力と魅力ある中和地区の未来をつくっていく、その仲間として塾生を歓迎したいとのお言葉をいただきました。

澁澤寿一塾長をはじめ、駒宮博男副塾長、地元実行委員やスタッフも塾生たちの入塾を歓迎しました。

 

◆講義「真庭なりわい塾の目指すもの」と「地元学」

入塾式に続いて、塾長の渋澤寿一氏(NPO法人共存の森ネットワーク理事長)が、「真庭なりわい塾の目指すもの」について、また「地元学」についての講義を行いました。

地元学は、地域の皆さんと一緒に集落を歩いて、家々や田畑、水路、里山の景観等から集落の成り立ちを読み解く手法です。中和地区には大小13の集落がありますが、一つとして同じ地域はありません。雪が多い集落、水田が広い集落、共同作業が多く残っている集落、商店街があった集落。それぞれの集落でそこに住む人たちがどんな風に暮らしているのか、季節ごとの行事や集落の決まりごとなども教えていただきます。

今回は、中和地区の13集落のうち下鍛冶屋(しもかじや)、荒井(あらい)、初和(はつわ)の3集落を、グループに分かれて歩きました。

 

◆下鍛冶屋集落◆

かつての下鍛冶屋集落は「中和銀座」と呼ばれ、村役場をはじめとして、商店や食堂、旅館などが集まる中和の中心地でしたが、今はほとんどの商店や食堂が廃業して、村役場は市の出張所となって職員も減り、住民以外の人はほとんどいません。一方で、最近は30歳代のIターン者が複数入ってきています。彼らは、夫婦で狩猟と農業を営んでいたり、もともと食堂や旅館だった建物を改装して新しい豆腐屋やゲストハウスをオープンしたりと、新しい動きが出てきています。また、通りの入口にあった商店では、再び地域の老若男女の集いの場所をつくろうと、中和地区の有志の方が中心となって取り組んでいます。

中和銀座通りは、かつての賑わいを感じさせながらも、新しい中和地区の姿も見ることができる場所だと感じられました。

 

◆荒井集落◆

集落にあるお堂の周りの柵は、集落の皆さんが手作りで作ったもので、クリの木を地面に立てて、それをリョウブと藁で固定していました。あるお宅の水路では畑の面積を少しでも大きくするために、自分たちで遠くの川から石を運び、3年かけて石垣を作ったそうです。集落を流れる川では、住民たちで草刈りをします。景観や気の流れを良くして、気持ちよく過ごせるようにしているのだといいます。また、山と田畑の境目の部分も草刈りをします。これは、田畑に動物が入ってこないようにするためだそうです。

自分たちの生活を豊かにするために、必要な物は自分たちで作り、手を入れて暮らしていくという力強さを感じました。

 

◆初和集落◆

初和では、昭和29年に完成した湯原ダムの建設によって、集落移転をしたという歴史があります。移転前は35軒の家がありましたが、今は9軒29人で暮らしています。

初和は水が豊富な地域で、家々の脇には水路が流れており、この水はかつて飲料水として使っていました。水道は今も集落管理のため無料で使うことができます。

印象的だったのは、集落のお堂にお葬式の道具が残っていたことです。村八分とよく聞きますが、その残りの二分は火事とお葬式で、その二つだけは普段の付き合いがない家でも、集落総出で協力しあったそうです。

初和集落では、今でも何かあると集落みんなで話し合って決めているそうです。軒数は少なくても、濃くて温かい人間関係がそこにあると感じられました。

 

◆まとめのコメント◆

最後に、塾長の渋澤寿一氏(NPO法人共存の森ネットワーク理事長)から、2日間を振り返ってのまとめのコメントをいただきました。

 

田舎の過疎地と聞くと、その地域全体が過疎になっていると思いがちですが、実際に集落を回ってみると、下鍛冶屋のように軒数が大幅に減っている集落と、荒井、初和のようにほとんど変わっていない集落がありあます。荒井、初和のような集落では、生まれた家に住み、山から水を引き、家の前の田畑で食べ物を作り、子どもを育て、最期は家族と集落の人たちに見送られてお墓に入る。集落のなかだけで一生を完結する暮らしが、ずっと長い間続いていました。生きるために必要な物は、すべてその集落のなかにあるもので賄うことができたということです。

一方、皆さんの今の生活には、何が足りなくて、何が余分なのでしょうか。また、生きるために必要な物がすべてあるのに、田舎の若者は何を求めて都会に出て行ったのでしょうか。都会と田舎、それぞれで満たされないものとは何なのでしょうか。

この地域の人たちは、河川の土手のような公共の場所も、行政任せではなく、協力して草刈りをします。草刈りをしてお金がもらえるわけではありません。きれいになるとみんなが気持ちよく生活できるから、草を刈るのです。生活に必要なものはすべてお金で買う生活をしている私たちは、費用対効果で物事を考えますが、この地域には費用対効果では計れない、お金にならない価値がたくさんあります。

2012年の国連持続可能な開発会議(リオ+20)でウルグアイのムヒカ大統領(当時)が言った有名な言葉があります。「貧しい人というのは、物を持っていない人のことではなく、いくら持っていても欲しがる人のことだ」という言葉です。自分は何をもって「足る」と感じるのか、自分にとっての幸せとは何のか、是非この1年で考えてみてください。それがこれからの社会の価値観になると私たちは信じています。みんなで話し合いながら、それぞれの答えを見つけていきましょう。

 

◆おわりに◆

今年度で、真庭なりわい塾は3年目を迎えました。地域の皆様には、各講座へのご協力やコミィニティハウスのご提供など、大変お世話になり、ありがとうございます。また一年、真庭なりわい塾をどうぞよろしくお願いいたします。

 

《講義資料》

講義1)

真庭なりわい塾の目指すもの2018