第2期 基礎講座(11月) ~山村の未来~

■11/4~5基礎講座「山村の未来を考える」

 

今回は、「山村の未来を考える」をテーマに、事例紹介やワークショップ、講義、パネルディスカッションを行いました。事例紹介では、中和地区の空き家調査について副塾長で中和地域づくり委員会の大美康雄さんに、教育活動について中和小学校の江谷鮎美先生とPTA会長の土肥真由美さんにご紹介いただきました。また、中和地区にIターンされた高橋祐次さん・玲奈さんご夫妻、高谷裕治さん・絵里香さんご夫妻、赤木直人さんにお話を伺いました。さらに、他地区の事例紹介として、豊田市おいでん・さんそんセンターの鈴木辰吉所長に、「空き家に灯りを~まちとむらを結ぶ~」と題して、豊田市の中山間地域の取り組みについてお話いただきました。併せて、駒宮副塾長には、自然エネルギーと地域経済に関する講義をいただきました。最後に、真庭市の太田昇市長に、市の取り組みについてご講義いただいた後、ディスカッションにご参加いただきました。

 

豊田市おいでん・さんそんセンターの鈴木辰吉所長は、もともと豊田市の中山間地域のご出身で、豊田市の職員として産業部長・総合企画部長などを歴任されました。退職後、おいでん・さんそんセンターの所長に就任して、今年で5年目になります。

おいでん・さんそんセンターは、都市に住む人も山村に住む人も一体となって、地域の価値を共有し、未来の豊田市を考え、実現していく場としてつくられました。このセンターの設立趣旨は、主に中山間地域で活動を続けていたNPOや民間の活動団体の集まりから発案されたものです。当時の鈴木所長は、そうした活動団体の集まりにも顔を出す珍しい公務員で、気心の知れた仲間として一緒に活動されていました。そんな集まりの中で、行政と民間団体が同じ目線で地域づくりを考える半官半民の組織の必要性が議論され、2013年の夏に「おいでん・さんそんセンター」が生まれました。はじめは、豊田市の組織として設立されたセンターでしたが、今年の春には一般社団法人として民営化され、現在は豊田市から業務を受託する形でセンターを運営しています。その運営の意志決定は、活動団体や研究者、市民、センタースタッフが参加する会議で行い、事業を進めています。

豊田市は、2005年に37万人が住む都市部と4万5千人の山村部が合併してできました。人口増加する都市部と過疎高齢化が進む山村部を併せ持つ、日本の縮図ともいえるまちです。合併の契機となったのは、2000年9月の東海豪雨でした。山村部から市街地に流れ込む矢作川が決壊寸前となり、ぎりぎりのところで市街地は大規模な水害を免れました。旧豊田市の災害対策本部でも全く想定していなかった状況に、何の手立てもできず、避難勧告すら出していない有り様でした。同時に、矢作川上流の山間地では、手入れが行き届かない人工林が保水力を失って、無数の「沢抜け」が発生している状況でした。この災害をきっかけに、都市部と山村部は「運命共同体」であるという意識が広がり、合併に向けて進んでいきました。合併後は、山村地域の課題を解決すべく、行政は森づくり、社会基盤の整備、定住促進、地域活性化施策、鳥獣害対策など、様々な取り組みを行いました。しかし、さらに過疎は加速している状況です。

そうした中で、「おいでん・さんそんセンター」では、行政の手が届かない様々なサポートをはじめました。職員研修の場を探している企業、地域の資源を活用したい企業、生徒が学ぶ場を広げたい学校などに対しては、中山間地域の集落などをマッチングし、お互い良い影響を与え合えるような交流の場となるようコーディネートを行います。また、空き家を探している人、空き家を提供したい家主に対しては、空き家の内覧会やツアー、ガイドブックの出版や情報発信などを行っています。そのほか、これからの社会に必要になる様々な研究や実践も行っています。地域でできる小さなナリワイの研究や、森や健全化、農の継続、食のあり方を探る研究、未来を担う子どもたちの育成に関する研究などです。

豊田市では、中山間地域だけの人口ビジョン「おいでん・さんそんビジョン」があります。中山間地域には200集落がありあますが、2040年には人口が半減し、小中学生は3分の1になります。また農家は3分の2に減少し、担い手の8割は高齢者となります。さらに50集落は消滅して、100集落が「限界集落」になる予測があります。そうした地域が持続可能であり続けるために「移住・定住の促進」を重点取組の一つとし、年間40世帯の子育て世代の移住を目標に設定しました。

豊田市では平成22年から平成29年の9月までに、158世帯406人が空き家情報バンクを利用して移住しています。平均して年間約20世帯の移住者が入ってきているということです。さらに約240世帯が空き家を探している状況で、その6割は子育て世代です。つまり、空き家が提供されれば、移住者はそれだけ増えていくということです。

「この5年間、センターを運営してきて見えてきたことがある」と、鈴木所長は言います。「『おいでん・さんそんセンター』のような『中間支援組織』は、地域づくり分野ではかなり有効である」こと。「山村地域は人口1,000人当たり2世帯の子育て世代の移住で持続化が可能になる」こと。「都市は山村を、山村に都市を持ち込んで平均化するのではなく、それぞれが魅力を磨き上げることが、人を惹きつけていく」こと。「地域を活性化するということは、お金がたくさん回ることではなく、自分たちが安心できる地域を自分たちでつくっていく」ということ。「都市と山村の支え合いが、地方を元気にしていく」ということだと、鈴木所長は教えてくださいました。

 

中和地区では、中和地域づくり委員会と真庭なりわい塾一期生が協力して、今年はじめて空き家の調査を実施しました。その結果、60棟余りの空き家が存在し、うち10数棟は、他人に譲ったり貸したりすることを家主が希望しているということが分かりました。こうした空き家を放置しておけば、誰も住むことがないまま老朽化し、倒壊の危険性も高くなります。しかし、豊田市の事例のように地域側の体制を整えていけば、移住・定住を促進する地域資源として有効活用できます。そのためには、行政と地域がそれぞれの役割を確認し合いながら、協力しあって進めていくことが重要だということが分かりました。

 

最後に太田市長は、「真庭市では、住民が自由に意見を出し合いながらも、最後はみんなで一緒にやろうという意識を持っており、これが真庭市の伝統的な財産だ。今後も、地域住民や、新しい発想や価値観を持つIターン者たちと様々な課題に取り組み、日本の農山村地域のモデルとなりたい」と自身の思いを語ってくださいました。また、塾生に対しては、「新しい社会のカタチをつくる仲間となり、願わくば、これからも真庭市とコミットしながら、自身の人生を切り開いていってほしい」とメッセージをいただきました。

 

《講義資料》

事例紹介1)

事例紹介①「中和地区の空き家調査」

事例紹介②-1「中和小学校の教育」① 事例紹介②-1「中和小学校の教育」②

事例紹介②-2「中和小学校の活動」

事例紹介2)

先輩に学ぶ 「中和での生き方・働き方」高橋

先輩に学ぶ 「中和での生き方・働き方」高谷

先輩に学ぶ 「中和での生き方・働き方」赤木

事例紹介3)

事例紹介③「自然エネルギーと地域自治の可能性」

レクチャー1)

「空き家に灯りを-まちとむらを結ぶ」①

「空き家に灯りを-まちとむらを結ぶ」②

講義)

「人口プランから地域経済再生への道」①

「人口プランから地域経済再生への道」②

レクチャー2)

「まわる経済~地域資源を生かした地域づくり~」①

「まわる経済~地域資源を生かした地域づくり~」②