第9期 基礎講座 「地域の未来をつくる ~関係人口とコミュニティ・自治」

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11月29日(土)〜 30日(日)に、真庭なりわい塾11月講座を開催しました。今回のテーマは「地域の未来をつくる〜関係人口とコミュニティ・自治〜」。人口減少が進むなかで、地域に多様な関わりを生み、地域の営みを未来へつないでいくために何が必要なのか──講義と対話を通して深める2日間となりました。

<初日>公開講座「関係人口から地方移住へのステップを考える」

◆講演「関係人口をつくる〜観光でも定住でもない関係づくりとは?〜」
田中 輝美(島根県立大学 地域政策学部 准教授)


田中先生は、はじめに日本の総人口の長期的推移のグラフが提示しました。グラフでは、2004年をピークに、今後100年間で、極めて急激な人口減少になることがわかります。その上で「急激な人口減少をただ悲観的に考えるのではなく、そのことを前提に、どのように幸せな地域社会をつくるのかが大切ではないか」という問いが示されました。

地域住民と外部人材(関係人口)が協働で活動している島根県での実践事例として、廃線後のトロッコ運行の復活やイルミネーション企画、田んぼの草刈り応援隊の活動を紹介。関係人口は“観光以上、定住未満”の存在であり、外の人が関わることで地域の魅力を再発見するとともに、住民の誇りが育まれていくと説明されました。都会を中心に、人とのつながりを求める若者や「ふるさと難民」が増えるなか、地域が開かれ、来訪者が仲間として参加する関係性が新たな価値を生むといいます。国が関係人口1000万人を掲げる中、移動補助や空き家活用などの制度整備が今後の鍵となります。最後に、ご自身が仲間とともに再生した「美又共存同栄ハウス」の活動を紹介し、「地域とは魅力的な人の集まり。まずは自分たちが楽しく暮らすことから始まる」と締めくくりました。

◆事例発表①「水凪の庭で、学生と地域がつながる」
岡村 玲生(同志社大学 文化情報学部 4年)

岡村さんからは、北房地域の古民家を拠点とした「水凪の庭」での実践事例が紹介されました。空き家を学生が中心となって整備し、2023年にお披露目された「水凪の庭」は、学生・子ども・住民・研究者が交わる学びの場として活用されています。小中学生向けの郷育プログラムや、地域の文化資源をデジタル技術で可視化する試みなど、研究と活動の双方から地域にアプローチしてきた成果が語られました。3年間、地域に通い続ける中で、地域の人々が丁寧に紡いできた人と人とのつながりを言語化したいと思い、地域行事やイベントをテーマとした個人の研究にも取り組んでいます。イベントや行事を、単に“その日だけの出来事”で終わらせず、地域のより良い変化へとつなげていくよう心がけたいと、今後の展望を語りました。

◆事例発表②「北房の里山で、人と地域がつながる」
加戸 義和/小林 建太(国重の森活性化協議会)

左:加戸義和さん 右:小林建太さん

国重の森活性化協議会の加戸さんと小林さんからは、北房地域の里山資源と人とつなぐ取り組みが紹介されました。小林さんは真庭なりわい塾を卒塾後、北房地区に移住し、里山の利活用に取り組んでいます。一方、加戸さんは交流拠点「しんぴお」を立ち上げました。現在は、農村漁村振興交付金を活用して「国重の森活性化協議会」を組織し、宿泊(ゲストハウス)、食事、体験交流の3部門を柱とした持続可能な観光ビジネスを模索中。森の中での自然体験や、大学と連携したウッドデッキづくり、地域の子どもたちとは、流しそうめん、水遊びなど、多様な活動を行っています。また、笠岡市や備前市日生と連携する「岡山里山里海ユニバーシティ(OSSU)」では、里山と里海をつなぎ、環境省の“30by30”自然共生サイト認定も目指しています。小林さんは持続可能な森林経営を進めながら、共に活動する仲間(関係人口)を広く求めており、今後はインバウンド向けの展開にも挑戦したいと展望を語りました。

◆パネルディスカッション「関係人口から地方移住へのステップを考える」
登壇者:田中 輝美・加戸 義和・小林 建太・岡村 玲生 コーディネーター:吉野 奈保子

公開講座の後半では、パネルディスカッションを行いました。
岡村さんが「北房は故郷の一つだと思っている」と率先して語るように、会場にはすでに北房とのつながりを実感している参加者も多く、関係人口としての自覚を持つ人が多いことが印象的でした。
議論では「関係人口は移住につながるのか」という問いに対して田中さんが「関係人口はそれ自体に価値があり、移住は結果であって前提ではない」と述べ、繋がりの価値を丁寧に捉える視点が示されました。
加戸さんは、自身が“孫ターン”であることを紹介し、祖母の暮らした地域に戻った経験を語られました。
岡村さんは長く地域と関わる中で、子どもたちの成長も感じられ、より当事者意識が育ってきたと話しました。
小林さんは、里山の価値を未来につなぐためには「自分自身が動くことで仲間が増えていく」と語り、課題に向き合う人の姿が関係人口のフックになると語る田中先生の指摘とも重なりました。
高校生の関わりについても議論が広がり、小林さんは「面白さが入り口になる仕組みづくり」、岡村さんは都会と地方の“交換留学”的な視点の必要性を提案。

最後に一人ひとりが考える「関係人口とは?」が共有され、加戸さんは“縁のある人”、小林さんは“ぐるぐる回るスキル”、岡村さんは“一方的な思いやりを持てる人”、田中先生は“外にいる仲間”と表現し、多様なつながり方が地域の未来を支えていくことが示されました。

(2)コミュニティの中で生きる、働く

2日目は、集落で受け継がれてきた行事・祭礼や共同作業を入口に、つとめ(務め)とは何か、コミュニティの中で生きること、働くこととは何かを考える一日となりました。前半は上水田地区井尾・中津井地区横山の2つの集落の方から地域の行事・祭礼や共同作業についてお話を伺い、後半は渋澤寿一塾長の講義を通して、地域コミュニティの本質について考えを深めていきました。

◆上水田井尾集落のヒアリング(話し手:原一行さん、原優子さん)

左:原優子さん 右:原一行さん

優子さんが原家に嫁いだ頃(22年ほど前)は、地域の女性たちの井戸端会議が常にあり、祭りや行事も大変賑やかだったとのこと。「荒神講」は1月、5月、9月の年3回、「大師講」は2か月毎、「天神さん」は夏祭りと秋祭りがあったそうです。
「荒神講」は男の人が集まってお酒を飲む祭りごと、「大師講」は女の人が多く参加し、おしゃべりする機会で、「天神さん」は普段は接点がない親戚や孫など、知らない人を教えてもらう良い機会だったと優子さんは感じています。ところが「荒神講」や「荒神講」は段々と参加する人の数が少なくなり、コロナ以降行っていません。「声をかけることが大事だった」と言われていました。

かつて若い人の役割は「道つくり」でした。山道、農道、生活道と毎日のように作業に出かけていく義父の忙しさに優子さんは驚いたそうです。70軒以上の個人所有だった山道は「地縁法人」化し、村の所有にすることによって集団で管理していましたが、現在は高齢化が進み、今後の管理は、新しく移住してきた小林建太さんに託すしかないと期待されています。生活道は年々行政による舗装が整い、村人の作業はほぼなくなりました。農道は「水利権」を管理する団体が溝清掃、「営農」集団が土木作業などを担っています。山道の整備をしなくなったのは「薪を使うのが当たり前の生活がなくなったからではないか」というのが優子さんの意見です。一方で「人が少なくなり、年老いたからできないものはできない」「たからこそ、皆で担い合うようにしたい」というのが一行さんの思いです。
一行さんによると、近年、老人会の旅行が復活したそうです。昔の通りに続けるのは難しいけれども、移住者を含む次の世代が、将来また違ったカタチで、行事や祭礼を引き継いでいくことはあるのかもしれません。

◆中津井地区横山集落のヒアリング(話し手:上山 修さん・嶋田 有一郎さん)

左:上山修さん 右:嶋田有一郎さん

横山集落は、世帯数がかつての37戸から32戸へと少しずつ減少し、子どもは現在6名です。昔は小学校まで4kmの道のりを歩いて通っていましたが、今はスクールバスでの通学に変化しています。かつては、一年を通じて多くの祭りや行事がありましたが、時代と共に簡素化が進み、2000年代以降はいくつかをまとめて実施するようになりました。その背景には、昭和から令和にかけて「生活様式の変化」があります。もともと横山集落は専業農家が中心で、家で仕事をする人が多い地域でした。しかし1960年代以降、水島コンビナートへの出稼ぎが増え、直通バスが走るようになると、外で働く人が一気に増えました。

外で働く時間が増えたことで、地域の務めに割ける時間は少なくなり、祭りや行事、共同作業は徐々に減少。現在残っている共同作業は、草刈りのみだといいます。かつて行われていた、砂利道を整える「道つくり」も今はありません。
一方で、地域に残る人は案外多く、顔見知りの関係性や「この地域が好き」という愛着は、今もあります。外へ出ていった人も、地域行事には必ず戻ってくる。そんな横山らしいつながりが、静かに受け継がれていることが印象的でした。

◆「これからの社会と地域コミュニティの重要性」講師:渋澤 寿一塾長

【地域とは家族の集まり】
渋澤さんはまず「地域とは家族の集まりであり、100の家族には100の幸せがある」と語りました。「明日は良くなるかもしれない」そんな願いを、諦めずに実現すべく努力すること。その過程には、個人で解決できることもあれば、家族や友人が支え合い、助け合うことが必要な場合もある。自治とは、家族の枠を超えて、さらにご近所さんが集まり、自らの地域コミュニティのあり方を全員で考え解決することです。
自治は「行政サービスがまずあって、地域がそれを受け取る」という構図ではなく、地域が主体であり、「地域だけではできないことを行政が担う」関係性であったはずだといいます。地域が自ら動く前提があってこそ、行政の役割が生きてくる。そうしたバランスが崩れると、行政側の負荷は高まり、やがて機能不全に陥る危険性もあることが示されました。

【共感を生み出す仕組みが自治】
自治とは、単に「まわってきたお役目を果たす」ことではありません。地域コミュニティの中で価値を共有し、「共感を生み出す仕組みが自治」とも言えます。つまり、地域とは行政単位で区切られたものではないのです。「共通する経験」と「場の共有」が「共感」を作ります。そして、その積み重ねが結果的に地域をカタチづくるのです。
この「共感」には、実は届く範囲がある。そう語るのは、渋澤さんの友人であり、ゴリラ研究の第一人者でもある、元京都大学総長の山極壽一さんです。山極さんによれば、ゴリラの共感の範囲はおよそ15頭とのこと。一方で、言語をもつ人間の共感の範囲は、それよりも広くなります。会社経営の経験がある渋澤さんは「会社経営であれば150名くらい、地域コミュニティでは1000〜2000人ほどではないか」と言います。肉体を持ち、群れ社会として動く人間は「共感を得られる範囲に限界がある」ということです。
現代社会は、人と人とのつながりが薄れがちです。山極さんは、ひとつの食卓を囲まない家族、祭りの消滅、地域コミュニティーの崩壊などの人間社会の現状を見て「ゴリラから退化し、サル化する人類へ」という危惧を持っています。「サル化」した社会では、「強いボス」だけが権力を持ち、全員がそれに従うようになります。その言葉は、現代社会への強い警笛を発せられているように感じました。

【関係性の密度が過疎化を遠ざける】
新潟県村上市高根集落の「風の盆」における奉納相撲の事例などを通して、世代間で役割を受け継ぐ仕組みや、一体感を生み出す行事の価値について語られました。地域が持続していくためには、「食べる場の共有」「役割」「祈り」「共感」といった要素が必要で、それらが時間をかけて折り重なっていくことが欠かせないと言います。渋澤さんの「関係性の密度が過疎化を遠ざける」という言葉は、横山集落で聞かれた「地域への愛着ゆえに、集落に住み続ける人が多い」というお話にもつながっているように感じられました。

【おわりに】
今回の講座の締めの言葉として、渋沢さんはこんな言葉を残してくださいました。

「わたし、集落、子孫、そして、全ての生命は多様でありながら1つにつながっている。そのことを身体と心で感じるのが『祭り』。魂で確認する行為が『祈り』」

井尾・横山の集落事例と渋澤さんの講義から、地域を形づくってきたのは制度ではなく、人と人のつながりであることが改めて浮かび上がりました。祭りの縮小や担い手の減少が続く中でも、日々の小さな「つとめ」やお互いが支え合う関係が、地域の土台を支えています。
行事や祭礼は、「地域の記憶」を未来へつないできた大切な営みです。渋澤さんの講座は、そうした“地域の根っこ”に触れ、それをこれからどう育てていくのかを、参加者一人ひとりが静かに問い直す時間になりました。
あわせて、今、国が施策として打ち出す「関係人口」に対しても、「まずは地域コミュニティがあってこそであり、そこが脆弱では、関係人口を支える土台がなくなってしまう」という根本の課題を提示いただきました。

講義資料:「これからの社会と地域コミュニティの重要性」渋澤 寿一