12月8~9日(土・日)に、今期、第7回の基礎講座を開講しました。
初日は、副塾長の駒宮博男氏より、地域経済と自治の再生をテーマに講義を行い、その後、事務局長の小林加奈さんを中心に、自分自身の生き方をセルフデザインするワークショップを実施。夜は、真庭市長の太田昇氏と塾長の渋澤寿一氏が対談し、二人を囲んで塾生みんなで夕食をとりました。
2日目は、9月講座で、地域の80代の方に「聞き書き」した原稿を持参し、再度、それぞれの話し手のお宅を訪問。内容の確認作業を行い、また、2年目の実践講座に向けた話し合いを行いました。締めくくりは、江戸時代の庶民の暮らしから考える持続可能な社会についての、塾長による講義です。
〈初日〉
○講義1 「地域の経済と自治の再生~地域経済の見えるかと自治のゆくえ~」
副塾長 駒宮博男(NPO法人地域再生機構理事長)
経済について考える前提として、第四次産業革命が急速な勢いで進んでいること。その結果、ヨーロッパ近代が生み出した資本主義、民主主義、自由主義、平等主義が崩壊しつつあること。また、これらは所詮、人間の理想に過ぎないというお話がありました。
また、地域経済を考える時に、いかに多くのお金が地域外に流れているかという具体例の紹介がありました。パンやアルコール、肉、魚などの食料しかり、電気、石油などのエネルギーしかり。あるいは車も住宅も、ほとんどが外から購入するものです。いくら地域にお金が入っても、まるで穴が空いたバケツのように、地域外にお金が流れ出ています。地域内で消費する仕組みがないと、循環型経済にはならず、地域はベッドタウン化するだけだという指摘がありました。
お金を地域内で循環させる仕組みさえできれば、地域に新たな雇用が生まれます。また、食料やエネルギーなどの自給率が上がれば、それもまた、地域の雇用を生む力となり、地域経済を潤します。
地域内でお金とモノがまわるためには、人と人、人と自然の関係性を回復することが大切です。たとえば、岐阜県郡上市の石徹白(いとしろ)は、人口が300人を切り、その半数が70歳以上という状況の中で、新たに小水力発電に取り組んできました。小水力発電に取り組むにあたっては、地域の小学校を存続させるというミッションを掲げました。そして小水力発電だけでなく、若いお嫁さんたちはカフェをつくるなど、さまざまな動きが生まれ、若い移住者も増えていきました。2011年に3世帯だった移住者は、現在12世帯にまで増えています。
最後のまとめとして「関係性の回復と、関係性を先行させたと東洋的な思考法が、これからの地域再生の鍵ではないか」という話がありました。近代ヨーロッパがすべて悪いとはいわないが、その延長線上に幸せな社会があるとは思えない。もっと進歩に対して、あるいは自然や歴史に対して謙虚になるということ。「足るを知る」という言葉に象徴されるように欲望を抑制すること。そして「人と人、人と自然の関係性を再生することが大切だ」という言葉で、講義は終了しました。
〇ワークショップ「X年後の自分を考える」
はじめに、ノートと色鉛筆を使い、自分自身の生き方をセルフデザインする『生き方デザイン手帖』のワークショップを行いました。まず、それぞれが思いつく限り、好きなことややりたいこと、続けたいことなどのキーワードを書いていきます。そして、書き上げたキーワードを、改めて見直し、わくわくしたり、前向きにやりたいと思えるものには○。書いてはみたものの、実際にはやっていない、必要かもしれないけれども気が進まないものは×をつけて整理し、それを自分なりにカテゴリーに分類します。
さらにカテゴリー分けしたコトやモノを実現するためには、どんな場所で暮らすのがいいか。あるいは、どんな働き方や暮らし方をするのが良いかを考え、書き出してみます。
そして最後は、「時間」という制限をつける意味で、「X年後の自分」を設定し、自分の理想を文章で書いてみました。グループに分かれて、その内容を共有し、この日のワークショップは終わりました。
〇真庭市長と塾長の対談
夜は、太田昇市長と澁澤寿一塾長の対談を行いました。塾長が市長の経歴を伺いながら、市長の心にある、真庭市への思いや、仕事に対する姿勢を引き出していきます。それを聞きながら、参加した皆さんは、改めて市長の人柄を身近に感じることができたようです。30分ほど対談の後は、市長、塾長、地域の方なども交えて、夕食をとりました。賑やかな寄り合いのような雰囲気で、夜がふけてゆきました。
〈2日目〉
〇「聞き書き」作品の確認と仕上げ
9月講座では、中和地区に住む80代の男女3名に「聞き書き」を行いました。塾生は、それをグループごとに書き起こし、作品にまとめました。今回の講座では、その原稿を持って、再度、話し手の皆さんのところへお伺いし、内容を確認しました。細かい言葉の意味を確認し、また、さらに詳しいお話も伺えました。何より、聞き手と話し手の再会のひとときが嬉しい時間でした。
〇2年目の実践講座に向けた意見交換
副塾長の大美康雄さん、実行委員の土肥真由美さん、事務局長の小林加奈さんを中心に、2年目の実践講座のプログラムについて話し合いを行いました。一人ひとりの塾生が、来年度の実践講座に何を期待しているか。地域にあるニーズ、あるいは、講座としてできることなどを話し合いました。2年目の実践講座の内容は、決まったプログラムはなく、毎年、塾生の皆さんとの意見交換をもとに、オリジナルのプログラムを組んでいます。詳細は、1月の最終講座で、皆さんにご案内します。
〇講義2 「未来のための江戸の暮らし~持続可能な社会のモデルとして~」
塾長 渋澤寿一(NPO法人共存の森ネットワーク理事長)
最後は、塾長による持続可能な社会をテーマとした江戸時代の講義です。
江戸時代の日本は、「鎖国」という外交的な理由により、物質の循環が国内だけに限られていました。供給されるのは太陽エネルギーだけ。そのエネルギーを固定するのは植物しかなく、動物は基本的にその植物を食べて、土に還ります。閉じられた生態系の中で、すべてが循環していたのが江戸時代なのです。
長屋に住む一世帯が出すゴミの量は、男性の親指の半分だったともいわれています。人々はイワシの頭から大根の葉っぱまで消費しました。長屋に住む人の糞尿は、貴重な肥料となり、農村地域に運ばれ、豊かな土壌を育てました。そして、修繕やリサイクル業が、江戸の基幹産業だったのです。「もったいない」「バチがあたる」という価値観が、江戸時代の持続可能な暮らしを成り立たせていました。
その江戸時代、日本に来た外国人は、日本をどのように見ていたのでしょうか。『逝きし世の面影』(経済学者、渡辺京二氏著)という本から抜粋して、多くの言葉が紹介されました。
「日本人はみなよく肥え、身なりもよく、幸福そうである」(ハリス)
「日本の職人は本能的に美意識を強くもっている」(アリス・ベーコン)
「日本は子供の天国だ」(モース)など、など。
都市と周辺の農山村をつなぐモノやエネルギー循環。江戸の庶民の節度。遊び心や創造性に溢れた明るさ。そして何より子供たちへの溢れる愛情。江戸の庶民の暮らしには、これからの生き方や新しい価値観を創造してゆくための、ヒントが散りばめられているように感じました。
年明けの最終講座は、いよいよ、塾生それぞれの「X年後の自分」についての発表と卒塾式です。この春からの講義やフィールドワーク、あるいはワークショップの集大成として、それぞれが理想とする、これからの生き方、働き方を発表します。そして、2年目の実践講座に向けて、どんな一歩を踏み出すのか。ゆっくりと語り合いましょう。
《講義資料》
講義1)
地域経済と自治再生① 地域経済と自治再生② 地域経済と自治再生③
講義2)
未来のための江戸の暮らし① 未来のための江戸の暮らし② 未来のための江戸の暮らし③ 未来のための江戸の暮らし④ 未来のための江戸の暮らし⑤