第2期 基礎講座(12月) ~「豊かさ」と「幸せ」の基準~

■12 /9~10基礎講座「経済と地域~自分でみつける『豊かさ』と『幸せ』の基準~」

 

今回は、「経済と地域~自分でみつける『豊かさ』と『幸せ』の基準~」と題して、講義とワークショップ、意見交換を行いました。

 

はじめの講義では、講師の伊藤洋志氏(LLPナリワイ)に「人生を盗まれない働き方-ナリワイをつくる-」をテーマにお話しいただきました。

伊藤さんは、さまざまなナリワイをつくって生活していますが、それを「仕事を自給する仕事をしている」と表現します。あるときは「モンゴル武者修行」をコーディネートし、またあるときは「全国床張り協会」として全国を飛びまわります。プランナーとして木造校舎で結婚式を開いたり、繁忙期のみかん農家や梅農家とコラボしてインターネットで販売したり、これも伊藤さんのナリワイです。

ナリワイをつくるには、まず、楽しみながら支出を減らすことが大切だといいます。

「たとえば、初めに手を付けたのが家賃です。そのままでは住めないほど傷んだ家は、安く手に入ります。そして自分で修繕することで、DIYの技術がタダで身に付きます。自分で修繕する家は、住み手に最適化できるため、自分に合った家を探す必要もなく、自分に合わない家で妥協することもありません。毎日の生活に余分なストレスもなく、溜まったストレスを発散するためにお金を無駄に使うこともありません。そして、この家を他の人にシェア(賃貸)することがナリワイになります」

伊藤さんのナリワイは、まず自分が「自給」や「節約」をすること、そしてその「余剰分」を「おすそ分け」として他人とシェアするという考え方から成り立っています。少ない支出で生活を充実させながら、少ない元手で仕事をつくるというのが、伊藤さんのスタイルです。こうしたスタイルでナリワイを増やしていくと、収入の割に余裕のある生活ができるといいます。そして、ナリワイは単なる収入ではなく、自身も楽しみながら、体と頭を鍛え、さらに充実した人間関係も得ることができます。

既存の仕事という枠に捉われない伊藤さんのナリワイとその生き方は、塾生の背中を押してくれたように思います。

 

次の講義では、「未来のための江戸の暮らし」をテーマに澁澤塾長(認定NPO法人 共存の森ネットワーク 理事長)にお話しいただきました。

この講義では、『逝きし世の面影』(経済学者、渡辺京二氏著)から抜粋して、当時の日本人の暮らしぶりが教えていただきました。この本は、幕末から明治初頭に来日した外国人が本国に送ったプライベートの手紙を翻訳してまとめたものです。

当時の江戸の主産業は、修繕・リサイクル業であり、都市と周辺の農村を一体としたエコシステム(物やエネルギーの循環系)がありました。このような社会システムと節度や調和から、日本独特の「風土」や「文化」が生まれました。さらに、江戸は、自立した大人の社会であり、創造力のある社会でもありました。役人はほんのわずかな人数でしたが、町単位の自治がそれを補完するように形成されていました。また、人々にとって「働くこと」は「生きること」そのものであって、美術、文学、芸術も、高い水準でした。加えて、好奇心と子供への愛情を持つ社会でもありました。

この頃、西欧では産業革命と植民地政策が進み、「資源が足りなければ外からとってくればいい」「マーケット(植民地)を大きくすれば、もっと売れる」、それが自国を豊かにすると考えていました。しかし、鎖国をしていた江戸時代、日本人は有限な世界の中で生き生きと暮らしていたのです。来日した外国人たちはその様子に驚き、手紙に書き残しました。

私たちの今の暮らしの価値観は、かつての西欧の考えの延長線上にあります。これからは、環境モデルだけでなく、生き方のモデルと新しい価値観をつくることが重要です。そのことを、江戸の社会は教えてくれるように思いました

 

次に、修了レポートに向けたワークショップを行いました。「X年後のわたし」は、どこで、誰と。どんな暮らしをしているのか。どんなことを仕事にして、また地域や社会とどのように関わっているのか。人生の夢や目標は何か。「Ⅹ年後のわたし」を実現させるための第一歩として、何を始めるか。各自、ワークシートに記入した後、3人1組で共有しながら意見交換を行うワークを2回繰り返して行いました。塾生たちは、お互いアドバイスをし合うことで、自分の夢をより具体的に、現実のものとするためのブラッシュアップを行いました。

この「X年後のわたし」は、2月に塾生全員に修了レポートとして発表してもらいます。表現方法は自由。昨年の1期生は、琴を演奏したり、寸劇をしたり、ラジオDJをしたりと個性豊かな発表をしてくれました。2期生はどんな発表になるのか、どんな「X年後」が聞けるのか、期待したいと思います。

 

2日目は、2年目の実践講座に向けた意見交換を行いました。2期生の実践講座では、「里山活用プロジェクト」「農と加工プロジェクト」「地域づくりプロジェクト」の3つのチームの活動が予定されています。

各チームの活動をサポートしてくださるのは、地域在住の真庭なりわい塾実行委員の皆さんです。「里山活用プロジェクト」は赤木直人さん(一般社団法人アシタカ)と柴田加奈さん(津黒高原荘いきものふれあいの里)。「農と加工プロジェクト」は高谷裕治さん、絵里香さんご夫妻(農業生産法人 合同会社 蒜山工藝)。「地域づくりプロジェクト」は大美康雄さん(中和地域づくり委員会)と土肥真由美さん(中和いきいきサポーターズ倶楽部)です。

 

塾生たちは希望するグループに分かれ、具体的にどんな活動をしていくか話し合いました。地域が抱える課題や想いと塾生の興味が重なる部分を探しながら、どんなことをしたら地域にとっても塾生にとっても意味のある活動になるのか、スタッフも塾生も一緒になって考えました。どのチームも活発な意見交換ができ、充実した実践講座になりそうです。

塾生は、今後、希望するプロジェクトを選択し、3月から始まる実践講座に参加します。活動成果は、毎年11月3日に開催される中和地区の「紅葉祭」で発表する予定です。

 

最後に、「経済と地域~これからの幸福論~」 と題して、駒宮副塾長(NPO法人 地域再生機構 理事長)にお話しいただきました。

 

―― 現在の日本は、高度経済成長期以降の過度な競争によって、高所得者と貧困者(勝ち組と負け組)の二極化が顕著となっています。多くの学生は勝ち組になるために、たくさんの企業にエントリーして就職活動を行います。しかし、希望する企業に入れなかった学生は、その時点で負け組のレッテルを貼られてしまいます。また、就活に成功した勝ち組の社会人も、心身の病気、親の介護などさまざまな理由でドロップアウトしていきます。こうした社会は正常といえるのでしょうか。

私は、人間が生存することを基本とした社会が、人間社会としてあるべき姿なのではないか、と考えています。ある程度の食べものとエネルギーは自分たちで自給して、安心して暮らすことを優先する「生存経済」を確保しながら、能力がある人が勝ち組となる競争社会(グローバル経済)があるというバランスのとれた社会です。また、過度な競争社会によって、失われたものも取り戻さなくてはなりません。

ブータンでは、「人と人」「人と自然」そして「世代間」の3つの関係性が良好な状態を「幸福」と定義しています。日本では、多くの人が都市部に暮らすようになり、「孤立社会」「無縁社会」とも言われています。また、食べものをお金で買うようになり、生産と消費が分離してしまいました。都市部に核家族で暮らすサラリーマン家庭が増え、子どもたちはさまざまな年代の人と触れ合う機会を失っています。また、速すぎる時代の流れについていけず、自分が生きる社会を咀嚼して次世代に伝えることができないという問題もあります。日本人は、ブータンのように、改めて「人と人」「人と自然」「世代間」の関係性を構築していくことが必要なのではないでしょうか。

真庭なりわい塾では、最終講座で「X年後の自分」を発表してもらいます。そのX年後には、さらに時代が変わっていると予想されています。4年前に発表されたオックスフォードの論文では、10~20年後には、現在の仕事の47%はコンピュータ(AI)にとって代わり、多くの人は仕事を失うと結論づけています。また、経済産業省の次官と若手グループのあるレポートによると、低所得者は今よりさらに増え、高所得者も少し増えることで二極化はさらに進むと予想しています。

そうしたなかで、皆さんは「X年後」をどう描くでしょうか。ポイントは、暮らし・稼ぎ・務めの3要素と、人と人、人と自然、世代間の関係性です。これまでの居場所、新しい居場所は、3要素(暮らし・稼ぎ・務め)のどこにあり、どういう関係性を良好なものにするかを考えてみてください。さらに、それぞれの居場所でどういう役目(参加)を果たすかを考えてみてほしいと思います。

この真庭なりわい塾の限られた時間のなかで、伝えきれなかったことは山程あります。最後に、結論をお伝えするならば、私たちが幸せを求めて最後に辿りついたのは、定常型社会、地方自治、適性技術だったということです。そこに、これから目指すべき社会のヒントがあると考えています。

 

これから皆さんが、激動期を生きるために必要なことは「高い視野で社会を見つめ」、「出来れば、自分で流れを作る」ということだと駒宮副塾長は言いました。

スタッフ一同、皆さんのこれからに期待し、1月の修了式と塾生の皆さんの発表を楽しみにしたいと思います。1年間、お疲れ様でした。

 

《講義資料》

講義1)

未来のための江戸の暮らし①

未来のための江戸の暮らし②

未来のための江戸の暮らし③

未来のための江戸の暮らし④

未来のための江戸の暮らし⑤

未来のための江戸の暮らし⑥

講義2)

経済と地域~これからの幸福論~①

経済と地域~これからの幸福論~②