講座報告

第3期 基礎講座「聞き書き」

第4回となる今回の講座では、地域のお年寄りに話を聞く、「聞き書き」の実践を行いました。

今年は、中和地区に住む80代の男女3名の方に、話し手となっていただきました。塾生は3つのグループに分かれてご自宅を訪ね、この中和地区でどんな人生を過ごされてきたのか、今日までの日々の暮らしを一つひとつ丁寧に聞きました。話し手の皆さんは、子どものときに戦中戦後の貧しい時代を過ごし、その後の高度経済成長期から現在まで、めまぐるしい時代の変化に対応し、生き抜いてこられた方々です。

 

自動車や農業機械が発達したのは、ほんの50年程前の事です。話し手の方が30代の頃までは、生きるために必要なものはすべて、自らの身体を動かして得ていました。移動手段は徒歩しかありません。物を運ぶのときは背中に背負うか、大八車です。田畑は鍬で耕したり、牛に道具を曳かせたりしました。現在の便利な時代しか知らない私たちには、想像もできない労力です。40代になった頃には、農業は急速に機械化し、どの家も自家用車を持つようになるなど、暮らしは様変わりしていきました。そうした時代の変化のなかでの苦労や人生の岐路など、話し手の方には様々なお話を聞かせていただきました。

塾生は聞いたお話を録音し、それを一言一句、文字に書き起こします。その後、話し手の言葉だけを使って、読み手に分かりやすいように編集します。録音したデータの書き起こしと文章の整理には、聞いた時間の何倍もの時間がかかりますが、その間ずっと、話し手の人生に向き合いながら、作業を進めることになります。すると、話し手の人柄や価値観、心情が浮かび上がってくるのです。今回の講座では、話し手の方への取材と書き起こし、編集の方法のレクチャーまでを行いました。この後、塾生たちは書き起こしのデータを持ち帰り、グループで協力して一つの作品にまとめます。

 

 

今回の講座の2日目には、明治22年に中和村が誕生してから現在までの「中和の歴史と成り立ち」について、中和地域づくり委員会委員長の大美康雄さん(副塾長)にお話しいただきました。

 

中和地区では、戦中・戦後・高度経済成長期・バブル崩壊後・現在まで、どの時代も産業振興や移住促進などの様々な事業に挑戦してきました。大美さんは、それを「中和地区は、ひたすら『時代』(都会)に追いつく努力をしてきた」と言います。それらは、必ずしも成功ばかりではなく、失敗もありました。ですが、「そのすべてが中和には必要なことだった。すべてが繋がって今の中和がある」と大美さんは言います。現在、中和地区では、幼稚園・小学校の応援団「中和いきいきサポーターズ」、道の駅(直売所)で野菜を販売する「中和の新鮮野菜届け隊」、「中和定住案内所」の設置、旧商店を改装して地域住民の憩いの場を創造する「空き家の自主再生事業」、「冒険の森 蒜山」の開業など、過去の積み重ねのうえに、新たな挑戦を始めています。かつてのように「都会に追いつこう」とするのではなく、田舎は田舎らしく、古き良き部分は残しながら、新しい中和地区を作っていこうとする動きです。中和小学校を維持できる人口と世代バランスが整い、地域の資源を活用して地域経済を回し、多様な働き方や心の豊かさを感じられる暮らしができる、そんな魅力ある中和地区を目指していると教えていただきました。

 

 

講座の最後は、「現代とはどういう時代か~現代社会と違和感~」と題して、駒宮博男副塾長(NPO法人 地域再生機構理事長)にお話しいただきました。

 

英オックスフォード大学でAI(人工知能)などの研究を行うマイケル・A・オズボーン准教授の論文「雇用の未来」(2013年9月)では、今後10~20年程度で、米国の総雇用者の約47%の仕事がコンピューター技術によって自動化されるリスクが高いと指摘されています。現代では、「正社員」「1日当たり8時間勤務」「週5日勤務」という働き方が主流ですが、これのままの働き方を続けると、約半分の人が職を失ってしまうことになります。AI技術の発展による自動化が避けられないことであるならば、「1日当たり5~6時間勤務」や「週3~4日勤務」といったゆとりのある働き方にシフトしていくことが将来の姿かもしれません。

一方で、日本における移住希望者(Iターン者)の約半数が、短時間勤務、複数の仕事の組み合わせ、自らの起業によって、暮らしていけるだけの適度な稼ぎを得たいと考えていることが分かりました。

真庭なりわい塾に参加する塾生の多くは、現代の働き方になんらか違和感や疑問を持ち、田舎に居場所となりわいを探しています。まさにこの論文から見える新しい働き方と移住者の考えに該当する人たちだとも言えます。働き方以外にも、資源・エネルギー問題、お金がお金を生む経済至上主義社会、人と人の関係性の希薄化、食や健康の不安、教育問題など様々なことに違和感を持つ人は多いと思いますが、そうした違和感を職場や家族ではなかなか共有できないと悩む人も多いかもしれません。多くの人は、働き方に違和感を持っていても解決できないとあきらめて思考が停止してしまっています。また、子育て世代は、とにかく生活費を稼ぐことに必死で違和感に向き合う暇がありません。違和感の根源は、解決困難な現代社会の問題です。まず、気づいた人が問題の構造を理解し、できる範囲で行動していくことが大切です。

しかし、子育て世代に代表されるように、違和感に気づいていてもそれと向き合う時間がなく、行動の選択肢が限られてしまうという問題があります。働き方、暮らし方の選択肢の幅は、子ども時代に一番広く、大人になるにつれて次第に狭くなっていき、結婚後、子どもが独立すると少し増えますが、年齢を重ねていくと、また減っていく傾向にあります。

2年後には東京オリンピックが開催されますが、その直後からの数年間は不景気になることが予想されています。そして、10~20年後にはAI技術の発展により約半分の仕事が消えるかもしれません。X年後の未来を考えるときには、自分のライフステージとともに、社会の変化も予想しながら、自分らしい生き方、働き方を選択しなければなりません。それが将来の、ひとりひとりの夢の実現に向けて重要なことだと考えます。

 

《講義資料》

講義1)

聞き書き講義資料

講義2)

2018「小さな村の140年の変遷」

講義3)

現代と違和感(真庭9月)①

現代と違和感(真庭9月)②

現代と違和感(真庭9月)③