第5期基礎講座 林業とバイオマス

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1月9日(日)に、第5期真庭なりわい塾の第5回基礎講座を実施しました。今回の講座では、林業の現場を見ながら、人と森のこれからの関わり方を考えることを目的に講座を実施しました。

事前学習として、1月5日(水)に、塾長の渋澤寿一(NPO法人共存の森ネットワーク理事長)がオンラインで講義を行いました。

〇事前学習「日本の森と人の暮らし~森林とその利用~」

日本の国土の7割は森林です。日本の森は、世界でも稀にみるほど多様性に富んでいます。なぜかというと、氷河期の日本列島は、暖流が流れ込む日本海という、いわば湯たんぽを抱えていたからです。さらに人が森を伐ることによって、森に光が入り、多様性を生み出しました。

草地には最初に松が生え、やがて土が肥えてくると、落葉広葉樹が生えるようになります。これは葉を落とす木なので、多様性がある程度、保たれますが、これを放置すると、やがて常緑広葉樹に覆われます。すると木の根元まで光が届かなくなり、極相林となって多様性は失われてしまいます。里山を守るということは、木を伐って、植生遷移を止め、極相林にしないことです。森の管理とは、人間による光のコントロールなのです。

秋田県秋田市の鵜養(うやしない)という集落には、共有林が33箇所あり、順繰りに伐採し、薪として利用しています。伐採した翌年、その場所はワラビの宝庫になります。広葉樹は切り株から萌芽しますので、30年経過すれば、また元の里山に戻ります。里山は、燃料や食料、肥料、衣服の繊維、道具をつくる材など、衣食住のすべてを与えてくれました。

たとえば、田んぼで稲を作るためには、5~8倍の面積の山林、肥料が必要だといいます。人口が増えれば、当然、森は荒廃します。江戸時代の鎖国は、自給社会を維持し、森林破壊の抑制する側面がありました。そのバランスが大きく崩れてしまったのは、明治から昭和にかけての戦争が要因です。軍需物資として大量の木材が必要となり、山は禿山になり、町は焼野原になりました。戦後の復興のため、拡大造林がはじまりました。建材のみを生産し、利益を得る森づくり(=林業)が行われるようになったのは、ごく最近です。ところが戦後、燃料革命があり、高度経済成長があり、木材価格は低迷しました。日本の人工林は現在、50~70年生の木材蓄積量が最大となっています。伐期を迎えた木はたくさんある。でも、伐らない。荒れた森だけが取り残されています。日本のスギは世界で最も安いのに流通しません。なぜでしょうか。住宅価格のうち、木材価格は2~3割。ほとんどは、キッチンやお風呂などの水周り、あるいは空調や太陽光といった設備費です。消費者は白を好むので、国産材はなかなか使われません。木はかさばって重い、複雑な流通システムがある、ストックすると保管量がかかるなど、他にも理由はありますが、何よりも私たち消費者の価値観、ニーズが変わらないと、木材は流通しないのです。

山形県飯豊町中津川地区に広河原という集落があります。かつては44戸ありましたが、今は一戸だけとなり、お爺さんとお婆さんが暮らしています。屋根葺くための茅を刈り、スゲを刈って、笠やゴザをつくり、燃料となる薪や炭はもちろん、山菜や木の実。かつては牛馬の敷料など、ありとあらゆるものを里山から得ていました。そして、山にスギを植林し、夏の暑い盛りに、下草を刈っています。そうした生き方は、山に対しての当たり前の作法なのです。そして、この地域には、草木に感謝する「草木塔」の石碑があり、お爺さんは「今日も生かされて、ありがとう」と感謝の祈りをささげます。

自分が生きることは、山と一体です。山に生かされているという感覚、それが日本人の自然感です。森も人も高齢化し、里山にはナラ枯れが拡大しています。人間が利用しなくなってから、森の生態系は壊れ始めているのです。

持続可能な社会のキーワードは「循環」です。

山と海の循環、水の循環、里山の循環、神の循環……人は、循環する時間の中で暮らしています。一日は、朝、昼、夜と循環し、季節も、春から夏、秋、冬へと循環します。その中で暮らしや文化が育まれてきました。一方、文明は、直進する時間です。文明は後戻りしません。循環する時間を取り戻すことで、私たちの価値観も、世の中も変わっていくのかもしれません。

講座当日は、本庁舎からバスで出発し、最初に富原地区の人工林を見学しました。

■富原の人工林の見学

真庭木材市売(株)常務取締役の井原敬典さんの案内で、真庭市清谷の戸田顕治さんが所有する140年生のヒノキを中心とした人工林を視察しました。この人工林は、戸田さんの先代が吉野林業の密植多間伐方式をならい、明治20年頃から造林した人工林で。択伐を基本に長伐期施業を行っています。かつて林業は、40~50年生のスギやヒノキを皆伐し、植林を行う短伐期施業が主流でした。しかし、それでは採算が合わないため、現在は80年以上に育てる長伐期施業が主流となっています。

戸田さんの人工林は、暖地森林帯に属し、上層はヒノキやスギ、下層にはツバキ、ヒサカキ、アオキなどの常緑広葉樹(照葉樹)が自生しています。この状態を、井原さんは「林」ではなく「森」なのだと説明されていました。

スギやヒノキは、成長盛りの若い木のほうが二酸化炭素の吸収量が高いので、若いうちに伐採したほうが環境には良いといえますが、経済性を考慮すると、ある程度、大きく成長し、材積が高くなった段階で伐採したほうが良いということになります。また、経済的に成り立たないからといって、植林をしなくなれば、山は老齢木ばかりになってしまいます。林業を成り立たせるためには、人づくりと知恵が必要です。

林内で説明する井原敬典さん

■真庭木材市売(株)月田木材市場

月田木材市場に移動して、再び井原さんに丸太の価格や市場動向などを説明いただきました。月田木材市場では、毎月4日、14日、24日と四日市が立ち、原木が取引されます。素材生産業者が伐採した原木には、木材自然安定供給協議会のQRコードが付けられており、いつ、どこで、誰が伐採したかが、わかるようになっており、また、丸太には、出荷者ごとの記号や材の直径がクレヨンで書かれています。材積は、最小直径(末口の径)を二乗し、丸太の長さを掛けて計算します。40年生のヒノキで、1㎥あたり3万2千円が相場で、スギはさらに安く1万2千円が相場だそうです。つまり、ヒノキの丸太が1本2500円程度、スギは1000円にも満たないということです。新型コロナウィルス感染症の影響により2021年3月頃から輸入木材の価格高騰(ウッドショック)が起こりました。そのため一時、ヒノキは1㎥あたり5万3千円で取引されることがあったそうです。それでもスギの価格はほとんど変わらなかったそうです。

月田木材市場(丸太にクレヨンで印がつけてある)
椪明細 【椪(はい)とは、丸太などを積み上げた山を数える単位】

昼食をはさんで、再び、渋澤塾長に真庭の「里山資本主義」について、地域づくりの観点から講義いただきました。

〇講義「環境問題と地域づくり~里山資本主義の世界~」

真庭市は、木質バイオマスの活用の先進地といわれ、「里山資本主義」という言葉で有名になりました。でも、20年ほど前までは、山には何の価値も見出せない、どこの山村とも変わらない状況でした。当時、製材所やコンクリート会社、酒造会社などの若手経営者が集まって「21世紀の真庭塾」を結成しました。1997年、彼らは「2010年真庭人の一日」という物語を描いています。13年後の、ある一日を描いた物語です。ここにいる皆さん、すべての人に確実にいえることは、13年後には13歳、年をとるということです。ここには子供たちに大人気の温水プールがあり、地元製材所の木質バイオマスエネルギーが使われているといったことが書かれていますが、13年後に検証してみると、ここに書かれていることの8割は実現していたのです。未来は政治家がつくるものでも、コンサルが描くものでもない。自分たち自身で思い描き、つくるものなんだと、私は真庭の皆さんから学びました。

当時、真庭(旧勝山町、久世町、落合町)には、製材所が32軒ありましたが、どの製材所も経営は厳しかったです。なぜならば、木材しか扱っていなかったからです。一方で、ヨーロッパの製材所は、木材の売り上げは全体の7割程度。それ以外に、チップを売ったり、バイオマス発電などをして成り立っていました。

そこで、真庭でも、あらゆることをやってみました。樹皮、木片、プレナー屑、ペレットやチップ、木粉など、ありとあらゆるものを、エネルギーやマテリアルとして利用することを試みました。ひのきのおが粉と珪藻土を混ぜた猫砂は、大ヒット商品になりました。猫砂の消臭効果によって、都会のマンションでも猫が飼えるようになったのです。

これで、ある程度、仕組みができてきたと思いましたが、製材所から出る木質バイオマスだけでは、安定供給ができないことがわかってきました。建材を生産するラインが止まってしまうと、チップや木粉などの副産物が生産できないのです。そこで、山から直接、風倒木や林地残材など、木材市場では売り物にならないものを集積基地に集める仕組みをつくりました。

集積基地では、どんな木も、トン3千円で買うことにしました。高い、安いといった議論もありました。でも自分たちでその価格を決めて、いままでは価値がないと捨てていたものまで流通するようになったのです。

その結果、1万キロワットの木質バイオマス発電所が完成し、地域内エネルギーの自給率は30パーセントを超えました。重油に換算すると、年間14億円を地産地消するようになったということになります。このお金は、以前は、中近東などの産油国に払っていたお金です。それが地域内循環し、雇用を生み出し、森には価値がないと考えていた山の所有者にも、お金が入るようになったのです。

木材は、重くて、汚くて、かさばります。それゆえに、多くの人がかかわらないと流通しません。木材の価格を自分たちで決めるということは、森の価値を自分たちが決めるということです。全員の思いがまとまらないと、木材は流通できません。

真庭市中和地区では、津黒高原荘という宿泊施設の薪ボイラーに地域の薪を供給する仕組みができました。薪土場を管理する赤木直人さんは、その仕組みができたことを、こう評価しています。

「地域にお金を留まらせるため、地域の温泉施設が灯油ボイラーから薪ボイラーになりました。それからすべてはスタートしていますが、お金の地域内循環が大きな成果ではなく、これをきっかけにたくさんの人が関り、そこに話題が生まれ、昔のような協調する仕組み(自治)ができたこと、これが一番の成果であると思います」

便利で豊かになったといわれる日本は、本当に幸せになったのでしょうか。これからの社会をつくる上で、どんな価値観が必要なのか。たとえば、煩わしさを優しさや安心に変えていく。それが地域づくりであり、関係性をどうつくっていくかが、過疎地域が生き残るカギだと彼から教わりました。

午後は、製材所とバイオマス集積基地を見学しました。

■山下木材(株)

真庭市内には多くの製材所がありますが、全ての製材所が同じ「木材」を扱っているわけではありません。一言に「木材」といっても用途によって、材の太さや樹種など、様々なものがあります。

今回、見学させていただいた山下木材では、主にスギやヒノキを使い、住宅用の建材を製材しています。スギは梁や桁、ヒノキは柱や土台になります。材料となる原木は、真っ直ぐ伸びたA材を原木市場の競りで購入しています。

原木市場から仕入れた丸太は、まず樹皮を剥きます。この丸太が建材なるまでには、製材、乾燥、仕上げの3つの工程があります。今回は常務取締役の山下昭郎さんに製材所を案内していただきました。

最初の工程は、製材。帯鋸が2枚ついた機械で、一度に二面の製材をします。それを90度回転させると、角材になります。それを繰り返し、野地板をとり、材の中心で柱をとります。製材機にかける前に、「1本の丸太から効率よく木材を取るにはどうしたらいいか」を考えます。鋸歯が当たる位置を確認しながら、製材してゆきます。木は自然のものであり、均一ではありません。人によっても、材の取り方は様々だそうです。丸太からとった野地板と柱は、人の目で再度チェックします。風倒木と呼ばれる繊維が途中で切れた材や虫腐れの木は、強度が弱いことからここで弾かれます。合格になった材は、さらに特等材と1等材に分けられます。

次の行程は、乾燥です。乾燥機の中に材を並べ、120℃近くの高温蒸気と風を利用して、本来1〜2年かかる乾燥を1週間〜10日で行います。木材の乾燥にはバイオマスボイラーを使用しています。端材や樹皮を燃やすことで水蒸気を作り、乾燥機の温度を上げるのですが、ただ高温に晒すだけだと、木材が割れてしまいます。湿度にも気を配りながら、水分残量などの出来具合を見て担当者が調整します。材を割ることなく短期間で乾燥させる技術は、この製材所独特の方法があるそう。

最後の工程は、仕上げです。機械のカンナにあてて、全体的にカンナがかかればOK。カンナがかからない箇所がある木材は、ここで弾かれます。材が均一に真っ直ぐでない、という証拠だからです。他にも、強度に問題のある材や割れのある材、虫食いのある材は、B級品として弾かれます。その後、材は必要に応じてプレカット工場に送られ、接合部の加工が施されます。昔は大工が手仕事でやっていた継ぎ手や仕口などの加工を機械で行い、そのまま建築現場で組めるようにするのです。

購入した原木のうち、B級品も含めて木材として販売できるのは、わずか6割。そのうち、A級品はわずかだそうです。

山下木材(株)にて
仕上工場で説明する山下昭郎さん

■真庭バイオマス発電所とバイオマス集積基地

バイオマス発電所は真庭産業団地の一角にあります。今回はバス車内からその外観だけを確認することができました。発電所の発電能力は1万kW(キロワット)で、般家庭約22,000世帯分の需用電力に相当します。この発電所では主に地域の未利用木材を燃料として使用することで、地域の森林所有者、林業関係者への利益還元、また雇用増などの波及効果を生み出しています。

その後、バスは、高台にある真庭バイオマス集積基地に向かいました。真庭木材事業協働組合の専務理事である樋口誠一郎さんに現場で説明をしていただきました。バイオマス集積基地は、これまで廃棄物として捨てられていた製材端材や樹皮、山に放置されていた枝葉などが集積され、チップとして加工される場所です。チップには燃料用と製紙用があります。毎月6000トンを真庭バイオマス発電所に供給している他、県外も含め、10社以上の供給先があります。これまでゴミとして山にそのまま放置されたり、お金を出して廃棄物として処理されていた木質バイオマスが、ここでは有料で引き取ってもらえるので、市内のみながず県外からの持ち込みも多くあります。開設して7年目になる今では、業者だけでなく、庭木を剪定した際の枝葉なども含め、一般の持ち込みも増えているそうです。

真庭バイオマス集積基地で樋口誠一郎さんの説明を聞く
巨大なチップヤード

今回は、真庭の林業、製材業、そして木質バイオマス利用の取組を、現場の方にお話しを伺いながら視察することができました。以下、塾生の感想の一部をご紹介します。

・森を案内いただいて、素直に素敵だな、気持ちいいなと感じた。林業は森をつくる作業であり、そのためには資金、労力、工夫(知恵)が必要というお話を聞いた後、市場でもk材1本の値段を伺ったが、この現状で森づくりを続けるのは、とても感じた。木を伐採しても損、植えても損になってしまうと森は衰退すると何となくわかっていたつもりだったが、現場を知ることの大切さを改めて感じた。

・普段の仕事で木造建築に触れることは多いが、家を構成する木材が、どこから来て、どういう過程を経て、家を支えているのか、あまり考えたことがなく良い機会だった。

・バイオマス集積基地の樋口さんのお話からは、単に利益を求めるというよりも、地域の林業を支えるのだというの心意気が、そのお話の節々から感じられた。

・30年を超える取組で、真庭のバイオマスの仕組みができていることがわかった。思いと行動の両輪が必要だと思う。

・関わるすべての人の煩わしさこそ人間関係の元で、林業、製材業、バイオマスの供給、発電など、それを可能とする、すべての関係づくりの努力は図り知れないと感じた。

次回の講座は、地域コミュニティと自治について考えるとともに、自身のなりわいづくりについて、ワークショップなどを通して考えます。

※オンライン講義資料 日本の森と人の暮らし

※当日の講義資料 環境問題と地域づくり