第2期 基礎講座(8月) ~聞き書き~

■8/20~21基礎講座「地域のお年寄りに話を聞く」

 

今回は、グループごとに地域のお年寄りに話を聞く、「聞き書き」の実践を行いました。

 

講師の吉野奈保子さん(認定NPO法人 共存の森ネットワーク)には、「聞き書きの意義と手法」についてレクチャーいただきました。

「聞き書き」では、地域の暮らしの成り立ちや歴史を、一人ひとりのお年寄りの人生を通して学んでいきます。対話しながら丁寧に聞いていきます。聞き手の関心の持ち方によって、話し手が語る内容は変化し、異なる作品に仕上がります。今ある中和の風景は、代々、ここに暮らしてきた人々によって形づくられてきました。あなたが知っていると思い込んでいることも、丁寧に質問を重ねていくことで新たな発見があるはずです。その人が生きてきた情景を思い浮かべながら話を聞きましょう、とアドバイスいただきました。

 

今回、塾生たちは4つのグループに分かれて、真加子集落の池田真治さん、一ノ茅集落の實原周治さん、下鍛冶屋集落の藤井純夫さん、吉田集落の廣畑球子さんにお話を伺いました。いずれも中和地区で長年暮らしてきた90歳前後の皆さんです。戦前に生まれ、青春時代を戦時中に過ごし、高度経済成長期を経て、めまぐるしく変わる時代を農村地域で生き抜いてきた方々です。電気やガス、石油燃料に依存した便利な生活を送っている私たちには、想像もつかない苦労や経験がありました。お米や野菜、薪や炭などの燃料、生きるために必要なものはすべて自らの体を動かして得ていました。陽が出る前から、日が落ちるまで田畑や山ではたらく暮らしです。雪の日も自分で編んだ藁草履で登校したこと、自宅での出産が当たり前だったこと、機械化によって農業や暮らしぶりが大きく変わっていったことなど、様々なお話を伺いました。「百の生業をもつ百姓そのもの」の暮らしに感銘を受け、圧倒された塾生も多くいました。

 

夜は、録音したデータを基に、伺ったお話を文章に書き起こしました。一言一句書き起こしていくには、聞いた時間の何倍もの時間がかかります。知らない方言や慣れないイントネーションなどに苦労しながら、書き起こしを行いました。

翌日は聞き書き作品の編集方法を、吉野奈保子さんにレクチャーいただきました。塾生たちは書き起こしのデータを持ち帰って、次回の講座までの宿題として作品にまとめます。

 

最後にまとめの講義として、「今なぜ地域か~地域を多面的に考える~」と題して、駒宮博男副塾長(NPO法人 地域再生機構理事長)にお話しいただきました。

人間は、古くから衣食住の多くを森林に依存してきました。今でもその根本は変わりません。ところが高層ビル群が立ち並ぶ東京の風景は、持続可能な要素(自然)が欠落した風景と言えます。砂漠の人口都市に住むドバイの人々は、「父の世代はラクダに乗っていた。私の世代は車に乗り、息子の世代は飛行機に乗る。そして孫の世代は、またラクダに乗るだろう」と言います。原油の輸出に頼るドバイの暮らしは、そう長くは続かない。そのように認識している彼らのほうが、東京に暮らす日本人よりも、ずっとまともかもしれません。

岩手県大槌町吉里吉里地区は、昭和8年3月3日にも東日本大震災に匹敵するような大きな津波の被害を受けました。そして、その震災からわずか4ヶ月で復興計画を作成しています。そこには、あらゆるものの被害額が詳細に記され、復興に必要なものも現実的かつ具体的に記されています。この計画を作った復興委員として名を連ねているのは、現在の吉里吉里地区の住民の曾祖父にあたる世代です。当時、地域にはしっかりとした自治力があったということです。

ほんの50年ほど前まで、日本のそれぞれの地域は資源の共同管理(コモンズ)を基盤として、言い伝えや伝承により自ずと共有される「暗黙知」があり、それを掟とするコミュニティが成り立っていました。自然に対して畏敬の念を抱き、様々な神に祈りをささげ、自然資源を最大限に生かす知恵を持って生きてきたのが、日本本来のコミュニティです。人と自然の間には日本古来のモラルがあり、江戸時代までの農村には、掟はあっても成文法はありませんでした。現代社会では、法を作ることで逆に人間のモラルが低下してきたとも言えるでしょう。「聞き書き」は、消えゆく「暗黙知」を言葉にしていく作業であり、「暗黙知」を含めた地域資源の発掘するのが「地元学」です。

50数万年という長い間、人類は旧石器時代を過ごしてきました。その最後の1万数千年のうち1万年が縄文・弥生時代です。残り2千年のうち、最後の150年が明治以降の日本です。現代人の生き方は、かなり特殊なのです。産業資本主義になり、国民国家になり、石油文明になったのは、つい最近のことです。働き方も、多業からサラリーマン就労へと変わりました。車やコンピュータも爆発的に普及しました。でも、人間にとって本当に必要なものは何でしょうか。また、どうすれば持続可能なのでしょうか。

ブータンの「幸福」の定義は、人と人、人と自然、世代間の関係性が良好なことです。また、バリの人々が大切にしている「幸福な生活に必要な3つの要素」は、「人間と神の調和」「人間同士の調和」「人間と自然の調和」です。本当の「しあわせ」とは何なのかを、もう一度考え、新たな価値を創造すべき時代は、すでに到来しています。

 

《講義資料》

講義1)

聞き書きの意義と手法①

聞き書きの意義と手法②

聞き書きの意義と手法③

講義2)

今なぜ地域か①

今なぜ地域か③

今なぜ地域か②

今なぜ地域か④